倉庫業務におけるRPAとは?その4(物流版VE)

●前投稿において、RPAにおける投資対効果は、投資回収という側面だけを見ると人件費の削減がメインになりそうである。果たしてそれだけが正解か?

 単純に投資対効果だけでなく、物流品質の向上やユーザーに対する利便性といった付加価値向上も立派な投資対効果と考えられるべきだと考える。

 今回はVE(バリューエンジニアリング)という考え方をもとに、特に「物流におけるVE」について考察をしていきたい。(物流版VE)

【解説】

①Q(クオリティ)とD(リードタイム)は変化はないがC(コスト)低減→Vは向上

②Cのコストの変化はないが、QとDが向上した。→Vは向上

③Cのコストは上がったが、それ以上にQとDが向上した。→Vは向上

④QとDを向上させ、さらにCのコストを低減させた。→Vは大幅に向上

 ●「リードタイム」と「コスト」についてだが、リードタイムを短くするには高コストにならざるを得ないといった見方が一般的である。

 確かに、商品を即時配達するといったデリバリーだと、LTとコストは正比例である。しかし、「在庫管理」で考えると倉庫全体のスループットのスピードを上げると、抱えるべき在庫を少なくすることができる。

 そして結果的には

仕入れ商品の数量低減→在庫管理コストの低減→物流コスト削減

 同じく

仕入れ商品の数量低減→在庫圧縮→キャッシュフローの改善

といった好循環を生みだす。

 

●実際に私が経験したことでもあるのだが、現状全くシステムを介さないオペレーション実施している物流現場に、例えばWMS(倉庫管理システム)を導入したとする。

 システムを導入したのだから作業が効率化されるわけだから、当然、人員削減などのコスト低減を経営サイドは期待するだろうが、実際は在庫管理や出荷品質などの「精度」は向上するが、人員削減は大幅な変化は見られないことが多い。

 そういった場合、単純に投資回収といったものの見方をするのではなく、物流としての品質やLTが向上や、ユーザー側に対して高い物流サービスを提供、そしてその高品質な物流サービスをさらに拡販するといった営業活動(もしくは顧客維持)など、付加価値にも目を向けるべきと考える。

倉庫業務におけるRPAとは?その3(人員削減と雇用)

●RPAという考え方のもと、大型マテハンを導入など倉庫自動化を検討しているメーカーや小売および物流会社は多いが、業務の効率化にともない人員削減と雇用についても検討しなくてはならない。非常に重い問題ではあるが、この記事を読むことで方向性の一助になれば幸甚である。

[ボルティモア 2019年5月1日 ロイター] – 米アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)は、物流倉庫を近く完全自動化する可能性を排除した。現在の技術では、ロボットなどが人間の能力に取って代わることはできないと説明した。

アマゾン・ロボティクス・フルフィルメントを統括するスコット・アンダーソン氏は、「技術は現段階でなお極めて限定的」とし、注文の処理作業を完全に自動化するには少なくともあと10年はかかるとの認識を示した。

※写真は記事と関係はありません。(2008年北米物流会社視察にて管理者が撮影)

●実際に米国アマゾンのコメントを見る限り、マテハンのテクノロジーの問題で全領域を自動化できないというコメントであるが、一方ではアマゾンの倉庫が各地における「雇用の創出場所」となっているといった背景があり、一気呵成に自動化ができないことを示唆している。

 実際にアメリカ全業界の中でも、アマゾンはウォルマートに続く雇用の場を創出している。2018年、ある米国小売業視察ツアーに参加したのだが、アマゾンの某施設を見学した際に現地ガイドからも実際にそのような説明を受けた。それを裏付けるのように、ある調査機関のデータが物語っている。

●さて私自身の経験だが、実際ある物流業務における手作業部分をRPA化するにあたって計画をしたことがあるが、効率化による省人化、もっと平たく言うと人員削減の効果が機械の投資回収の原資になると計画をして、現場からの猛反発を受けた。そこで働いている社員やアルバイトからは、自分たちの働き口を奪う本部の人間的な目で見られたことは確かである。実際にはその計画では、これまでの手作業を機械することで、そこで働いている人達には、もっと人間でないと出来ない付加価値のある作業をしてもらうつもりであった。

 しかし、その「付加価値」作業が、何処で何をするのかの具体性が乏しかったことも反発の原因だった。(実際にはRPA化プロジェクトが頓挫したため、従業員は依然、従来通りの作業をしている。)

 さてこの付加価値であるが、VAS(流通加工)的な作業系ものから、サービスやユーザビリティの向上、作業品質向上といったものまで定義は広い。次回はこれをバリューエンジニアリング(VE)の視点から見ていきたいと思う。

倉庫業務におけるRPAとは? その2

 今回はEC通販などのピッキング工程におけるRPAに話を限定する。この工程には、いくつかの代表的なマテハンが存在するが、それぞれの特徴と適応対象物を比較し、把握できるように一覧化した。

 今後、マテハンを導入する際にどのようなタイプのものを選択すべきなのか、そのヒントとなれば幸甚である。

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【DPS】

●もうどこのセンターでも一般的に使用されているデジタルピッキングシステム。点滅するライトに従って作業者が当該商品をピッキングする仕組み。移動とピッキングの両方を行うため作業負荷は高い。

●DPSはいわゆる”摘み取り方式”。反対のトータルピック後の”種まき方式”にはDAS(デジタルアソートシステム)やGAS(ゲートアソートシステム)といったものもある。あくまでもこの中での比較ではあるが、下記3つよりは安価なシステムである。

 

【シャトル型】

●いわゆる自動式ハイラック・ストレージロボットのことで、人間がリフトを操作するのではなく、シャトルロボットが該当するパレットを作業ステーションまで運搬する方式。その先の工程は、パレット上の商品を人間の手でピッキングする必要がある。

 

【AGV型】※Automated Guided Vehicle

●お掃除ロボのルンバのようなロボットが、スチールラックを持ち上げて指定の場所まで持ってくる。ピッカーの方向導線が短縮できる利点と、ラックに収まる限りは商品の形状にあまり制約がない。

●Amazonが買収したKIVA Systemも同様の形式。日本ではGROUNDのバトラーが有名。(かつて楽天がKIVAを買収しようとして失敗したという話はいつかどこかで・・・)

 

【ストレージロボット型】※ここではAutoStore

●強化プラスチックのビン(オリコンのようなもの)が何千ケースも積み重なっている状態のものを、ピッキングロボットが上部から指定されたビンを作業ステーションまでもってくる方式のもの。その先の工程は、人間の手でビンの中から当該商品をピックアップし、バーコードリーダーでデジタルチェックをする。

●取り扱い商品がコスメ(小物)であること、また多品種小ロットから大ロットであることから、圧倒的な高密度の保管効率と歩行導線の短縮化による作業性向上という視点から、このAutoStoreの導入に至った。

※なお、カタログ上のスペックは保管効率は通常ラックの4倍、ピッキングなどの作業効率は3倍と記載されているが、実質それに近いパフォーマンスを発揮している。

 

 実際、現在私が所属している百貨店のEC通販は、“百貨”というだけあって、まさに様々なものを取り扱っている。

 直近の私のプロジェクトではコスメの部分にした特化したRPAという明確な目的があったが、ピッキングにおける複数の代表的形式のマテハンを比較することで、選定の意思決定をスムーズに行うことができた。

 今回登場したマテハンは、規模の大小にもよるが、少なくとも数千万円~数億円の投資となる。したがって、単純にマテハンの機能だけではなく、導入の効果効用がどこに発生し、それがどういった形で投資回収ができるか(例えば省人化によるコスト削減など)といった綿密な計画を立てていただくことと、このRPA化をプロジェクト化し、社内の関係部署の協力を得られるような社内調整が重要である。

 そして、このマテハンが“鬼っ子”にならないよう、導入したことに意味があるように推進することも物流担当者の役目である。

倉庫業務におけるRPAとは?

 昨今、RPA(Robotics Process Automation)という言葉をよく耳にするが、大型マテハンやロボティクスの導入など、物流業務を効率化するにあたり、どの業務がどういったマテハンによって自働化されるのかを解説する。そして、経営サイドからRPAの課題を与えられている物流担当者が、自社の作業工程に対して、より具体性をもった計画書を作成する上でのヒントになれば幸である。

 実際には大型のものから小型のものまで、様々なマテハンが存在するが、それらが入庫から出庫に至る工程の中で、どのように位置づけられ且つ効果を上げられるかを、入荷から出荷のプロセスに合わせてチャートにした下記の図である。

※ただし、今回の説明はBtoCおよび小ロット多品種のBtoCおよびBtoBの物流を想定したものである。

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【入荷】

●ICタグ:現在では10円を切るまで値段が下がり、最近では東レが5円前後のものを開発したことで、さらに実用化に近づいた。

効果:入荷検品の作業の省力化

課題:タグの取り付け費用の負担先は受益者負担が原則であるが、

   メーカー側のメリットなのか、小売り側のメリットなのか

   毎度毎度議論になるポイントである。

●自動倉庫:ここではノルウェー「AutoStore」ストレージ型。他にはルンバのようなマシンがスチール棚を作業員のところまで運搬するAGV型ハイラックにピッキングマシンを走らせて運搬するタイプ等がある。

効果:高密度の補完効率、入出庫における歩行距離の最小化

課題:商品の形状によって向き不向きがある。

   導入コストが高い。

  (それでも過去のマシンか比較すると随分安価になった)

   ※コストはケースバイケースなのでここでは割愛。

【付加作業】

自動撮影機:EC通販では商品の物撮りが必要であるが、商品撮影の生産性をUPさせるのは非常に難しい課題である。

効果:撮影の自動化と効率化

課題:商品の形状によって向き不向きがある。

   もちろん、物撮りのみでトルソー撮影やモデル撮影は不可。

【ピッキング・梱包】

●アームロボット:この数年、「つかむ」技術が猛スピードで進化しているが、作業は基本「ティーチング」といって、何度もサンプリングを繰り返して業務を覚えさせることが必要。近年では、デジタルカメラによる座標軸判断により独自で作業を覚え、修正する「ラーニング」ができるものも登場しているが、そのための“頭脳”となるシステムを用意する必要がある。

効果:人間の作業を代行→省人化および効率化

   長時間の作業が可能→倉庫の24時稼働体制

課題:技術的に同じような形状の商品を“積む”作業、

   いわゆるパレタイズが主。

   “積み下ろし”いわゆるデパレや小さなもののピッキングは

   まだまだ課題が多い。

<補足>現在は自立型協業ロボット(AMR)が登場し、人間より先に目的地に到着し、適切な商品の指示するものも登場している。

●自動梱包・自動ラベラー:これはすでにスタンダード化しているマテハンであるが、従来は箱のサイズごとにラインを設け、そのエンドに自動梱包機を配置していたが、現在では箱の高さを自由に調整できるものも登場してる。

効果:人間の作業を代行→省人化および効率化

   長時間の作業が可能→倉庫の24時稼働体制

課題:当然であるが、すべての商品に適応しているわけではないため、

   別途マニュアルレーンを用意しなければならない。

   また、機械自体は非常に高価。

【出荷】

自動ソーター:これもスタンダード化しているマテハンであるが、この機械を導入して効果を得るためは少なくとも1日数千件以上の出荷がないと効果は見込めない。そして意外にも、このソーターの効果を正しく理解している倉庫担当者は少ない。

効果:宅配物の方面別仕分け、サイズ仕分けにより宅配会社の負荷軽減

   →宅配料金の価格交渉および値上げ抑制

    出荷確定を同時に実施できれば、さらに交渉力が高まる。

課題:大型であるためにスペースを要する。また移動や撤去が困難。

 

★以上、社内プレゼンや導入計画の際のお役にたてば大変光栄である。

マテハンとは何か?

【マテハン】

 マテリアル・ハンドリングの略で、主に物流や製造の現場などで使用される運搬や荷役作業物流業務を効率化するために用いられる作業機械を称していう。フォークリフト、パレット、ベルトコンベアなどから自動倉庫にいたるまで、定義としては広く使われている。

 日本における不足、少子高齢化により、労働集約が型である物流においては省人化、自動化が必須である。そのための解決策として、ピッキングシステムや自動倉庫などの高度な機械の導入か近年増えている。

 ところで一般的にマテハン技術は欧州・北米が先進しており、特に北米が先行している。

その理由として

1. 大型の倉庫が多く、搬送における効率化が必須であるため
2. 従業員に英語を母国語としない人が多く、作業を単純化する必要がある。
3. 従業員の出勤率が安定しないため、自動化しないと安定運営ができない。

こうした背景からくる、業務の機械化・自動化の必然性が、ひいては業務の効率化とコスト削減につながっているといった状況である。”必要は発明の母”である。

北米の物流倉庫

 一方、欧州の場合、北米と同じく倉庫が大型であるといった特徴から機械化・自動化が進んでいることは確かであるが、それ以外としては、特にユニオンや労働環境に関する規定が厳しく、倉庫内従業員の安全衛生には相当厳しいルールの存在が
理由として挙げられる。
  事実、私が経験したフランスの物流会社では、ヘルメット用や安全服やビブスの着用のほか、重量物を人でのみで運搬してはいけないといった厳密な運用ルールが存在した。 そのため、倉庫内は運搬用のベルトコンベアが縦横無尽に張り巡らされているといった状態であった。
 これを効率化だけの側面で見ると誤りで、従業員が働きやすい環境を整備することが、継続的な事業運営につながるといった経営的側面が強く反映しているとも考えられる。

 さて、最近は京東(JD)やアリババで話題の中国の物流事情や、わが国の日本のマテハン事情についてであるが、これはまた別の機会に投稿させていただくこととする。

北米の物流倉庫