IoT戦略において日本の小売りはどうあるべきか?

前回の投稿では、日本の小売業におけるIoT戦略がアメリカとヨーロッパの中間を目指すべきではないかと述べた。今回はその深掘りをしてきたい。

近年の消費者動向

●消費者の購買動向を表す表現にAIDMA、AISASなどがあるが、近年はAのAttention(問題認知)以降はネットによる情報検索、ネットに代替案の評価、比較検討が主流となっている。

そして実際の購買はネットで買うかorリアルで買うかの選択となり、最後は口コミサイトやユーザーズボイスなどを見るために再びネット上に戻り、購買後の商品の評価、つまり自分の取った行動が正しかったことを確認する。このような承認欲求を満たす方法が定着している。

アマゾンの凄いところ

そしてアマゾンであるが、彼らの凄さはなんといってもこの消費者の購買動向のすべてがアマゾンのサイトの中で展開し、完結しているところにある。(下図を参照)

そして、物流というファンクションはこういった購買動向におけるお客様の意思決定の大きな一つの要素としてビジネスモデルに組み込まれているという事である。

物流に先行投資をし、物流に重点を置くのは、物流が単なるビジネスインフラではなく、立派なマーケティングの要素であることを十分意識しての行動なのである。

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ネットとリアルの融合「カスタマージャーニー」

●筆者の考えでは、日本が求める姿はアメリカとヨーロッパの中間、もしくはこの2つの要素をうまく組み合わせたスタイルがフィットするのではないかと考える。

アメリカは「オンラインと店舗の合流、融合」をテーマに、BOPIS(Buy Online and Pickup in Store)や、イベントなどいかに店舗にお客様を引き寄せるかという事を考えている。

一方ヨーロッパは店舗もECも成熟が早かったことから、商品在庫や価格を店舗・オンラインで統一しようという動きが強い。よって、消費者自身の都合と状況でネットとリアルを使い分けている。

そして日本はその両方の良い所取りという意味で、お客様がECと店舗、ネットとリアルを自由に行き来するカスタージャーニーを体験できる仕組みが、EC専業者が台頭するなかにおいて、日本の小売業が生き延びていく最終手段・戦術になるのではないかと筆者は考える。

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そして、この仕組みをプラットフォーム化したところが覇者となる。そのため、IT面ではフロントエンドの構築の重要性もさることながら、ネットとリアルの商品在庫数の補足、ロケーション管理、商品移動、ラストワンマイルなど物流が担う領域は広く責任は重い。

小売のトレンド NRFリテールビックショー

アメリカで毎年1月の中旬もしくは下旬に開催されるNRF(National Retail Federation)リテールビッグショーは、小売業の戦略および戦術における新たな試みや先端のトレンド、技術を知ることのできる展示会・エキスポである。

今年2020年1月は未だコロナウィルスの影響はなく、スムーズに開催された。残念ながら今年の情報はまだ整理しきれていないのだが、近年の傾向は物流や配送に関係する部分も多いので、今回取り上げてみようと思う。

NRF(National Retail Federation)リテールビッグショーとは

開催地:アメリカ・ニューヨーク

期間:1月中旬or下旬の4日間 2020年は1月12日~14日

出展:800社以上 

来場者:99か国から約4万人 

主な出展:Walmart, Kroger, Macy’s, Target, Gap, Amazon, Alibaba, JD, GroupoGS, Microsoft, SAP, CISCO, 東芝, 富士通, FedEx, 三井物産, イオン等々

小売業界、システム業界、システムハードウェア業界、SI業界の名だたる企業からベンチャー企業が出展。

近年のテーマ:「IT使った小売の取り組み」「IT会社と小売のコラボ」

近年のBuzzword:多様性、AI、VR、プロジェクションマッピング、Robotics 等々

世界的視点でみた小売業が取り組んでいるIoT戦略

やはりネットとリアル、それを実現するインフラ作りがIoT戦略のトレンドになっている。

  1. 全米⇒オンラインと店舗の合流、融合    
  2. 中国/アジア⇒モバイルによるショッピング
  3. ヨーロッパ⇒店舗とオンラインにおける在庫と価格の同期

全米はアマゾンがホールフーズを買収したり、Walmartが店舗を有効活用したECの展開を強化していることからも十分計り知れる。

中国はアリババやJD(京東)の躍進にも表れているように、とにかくモバイル端末を利用した決済をはじめ、フーマーフレッシュなどのフューチャーストアがどんどん登場している。

ヨーロッパはスーパーや百貨店などが成熟していることと、ECの普及も早かったことから、消費者は店舗・オンラインをそれぞれの価値観で使分けたり、リアルとバーチャルを行ったり来たりして買い物をしている。よって、正確な在庫情報と価格の統一は非常に重要な要素となる。

注目は「BOPIS」

BOPIS(Buy Online and Pickup in Store)とはクリック&コレクトと同義で、ネットで注文し、店舗にて商品を受け取る方法をいう。ネットとリアルの融合の1stステップとして実施している小売りも多いが、中にはピックアップ専用のロッカーを街中に置くだけでなく、店舗にまで備え付けている企業もある。

<一例>

Little Caesars Pizza (https://littlecaesars.com/en-us/)

⇒ピザ用の店舗備え付ロッカー

Express ※アメリカ版ZARA (https://www.express.com/) ※下記HPキャプチャー

⇒店舗や市中の宅配ロッカーあり

US Express のHPより

BOPISは消費者と事業者の両方にメリット

なぜBPOISが注目されているのか、消費者と事業者のメリットという視点で捉えてみたい。(★は特に大きなメリット)

<消費者側のメリット>

送料負担がない

好きなタイミングで受け取り

事前の商品確保★

商品検索時間の短縮

その場で返品できる★

<事業者側のメリット>

EC事業者(特にアマゾン)との差別化★

顧客ニーズ対応

ついで買いへの期待

ブランドエンゲージメント(顧客との接点)★

配送コストがかからない★

BOPISで買ったお客様はの反応は?

今現在BOPISを実施している、前述Expressでは、BOPIS実施以前と後で以下のような数字に変化が表れているようである。非常に興味深い内容である。

顧客満足度 13%UP

購買点数   21%UP

客単価   $58が$59へアップ

顧客接点という意味ではBOPISで買ったお客様の60%が店員とコミュニケーションをとっている。そして、もう一度買いたいBOPISで買ったお客さまは92%もいる。

このことは、消費者側はECの便利さを享受しながらも、時には人間的なコミュニケーションをとりたい意識を持っていることの表れでもあり、店員のコミュニケーションがしっかりと顧客を繋ぎとめているということでもある。

IoT戦略について、日本の小売りはどうあるべきか?

筆者の考えでは、日本が求める姿はヨーロッパとアメリカの中間、もしくは足して2で割った形がフィットするのではないかと考える。

この点については、次回深掘りをしたい。

物流子会社とは?その4 (百貨店の物流子会社としての役割)

筆者は現在某大手百貨店の物流子会社に出向している。そしてグループにおける当社の存在する意味、価値を常に考えている。しかし、なかなか答えは見つからない・・・・。

今回は、物流子会社とは?のその4、今回は百貨店物流子会社としての役割とは何かを掘り下げる。

百貨店は既にオワコン

●百貨店の売り上げはバブル期の1991年の約9.7兆円がピークで、25年後の2016年には、およそ6割の5.9兆円にまでシュリンクをしている。

その背景には、バブル経済、リーマンショックによる経済の悪化やデフレ基調に始まり、近年は可処分所得の減少やモノよりもスマホなどの通信やアプリにお金を使う傾向などが強まっていること、そして「アマゾンショック」に代表されるECの台頭など、さまざまな原因が考えられる。

しかし、何よりも我々百貨店業界が反省しなければならいのは、百貨店としてのコンテンツの衰えである。従来は目利きのバイヤーによる買い付けが中心であったが、近年は場貸しビジネスで、どの百貨店も大体同じブランドが出店し、特徴がなくなってきている。

バブル前の80年代は、「おいしい生活」で代表されるように、百貨店は常に流行を先取りし、情報を発信し、文化をリードしてきた。そういった本来の役割など、今は殆ど感じられなっている。

デジタル化なくしては生きてゆけない

●デジタルコンテンツやスマホアプリ、画像や動画、チャットなどによるライブコマースなど、今はITやデジタルを技術を基盤にしたビジネスが通常となってきている。しかし百貨店業界は2周も3周も周回遅れである。

アメリカでは老舗の百貨店/スーパーのシアーズ(Sears)が倒産するなど考えられないことが起きているが、原因はアマゾンショックだけではない。デジタルを中心にした世の中の消費者動向にアジャストできなかったからだ。

下図は欧米の有名百貨店の売上い推移である。ECやアプリなどを初めとしたさまざまな形でのデジタル対応をしている百貨店は微増ながら売り上げは上昇傾向である。しかし、デジタル化を進めていない百貨店の売り上げは下降傾向となり、明確な違いが出ている。

百貨店が生き延びていくためには、デジタル化は必須なのである。

※アップトレンド(上昇傾向)の百貨店
※ダウントレンド(下降傾向)の百貨店

では、百貨店物流子会社役割は?

●百貨店ビジネスにおける物流費のコントールは当然のことながら、今後の新しい百貨店ビジネスにおけるインフラ作りを物流面からサポートしていくことが、百貨店物流子会社の大きな役割である。

前述のデジタル化は、最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれ、このDXプラットフォーマーになったものが、小売りビジネスの覇権者になる。

そういった流れの中では、ITと物流がカギを握っていることは間違いない。特にこれからのお客様の消費動向は、ネットで見て、店頭で買ったり、店頭でみてネットで買ったりと、リアルとバーチャルを行ったり来たりする「カスタマージャーニー」が主流となる。

そうやって双方のチャネルから送客されてコンバージョンつまり、商品をお買い上げになった商品を配送する、もしくは店頭で受け取るといった物的流通(物流)が重要なKSF(成功要因)となるのである。

物流子会社として親の仕事だけをするのか?

●前回の記事にも書いたが、ある程度の波動を想定したインフラ配備の場合業務の繁閑差から生産余剰が発生する。ましては高品質なサービスレベルを実現するには、機能や設備は多め(高め)に設定される。

我々物流子会社はそういった生産余剰(余剰スペースや余剰車両など)を、有効活用して外販などをすることでマネタイズし、親やグループへの貢献をすることも役割の一つである。

もう一つは外部の案件と触れることで、百貨店以外の商売におけるビジネスモデルやトレンドなどに触れることで、またそのような商材の物流に携わることで、新たなノウハウとナレッジが蓄積されると考える。

そして、そのノウハウとナレッジが百貨店における新たなビジネスモデルを支える物流インフラ構築へ生かされるといった、好循環をもたらすことができる。

まさしくそれが物流子会社の役割なのではと筆者は考える。

物流子会社とは?その3 (外販について)

筆者は現在某大手百貨店の物流子会社に出向している。そしてグループにおける当社の存在する意味、価値を常に考えている。しかし、なかなか答えは見つからない・・・・。

今回は外に打って出る物流、外販について考える。

当社、百貨店物流の強み・ノウハウは?

●外販をするからには物流会社としての特徴、強みをもっていることが重要である。

イメージとして百貨店物流であるから、あらゆる商品の取り扱いを知っていることが強みではあるが、世間的な見方、荷主からの評価としては、食品物流・温度帯物流に強い、というイメージが強い。

中元や歳暮の贈答品も、贈り物のメインはやはり食品であるためにそう思われているのであろう。当然、温度帯や生鮮産品をあつかっている店舗の物流機能部分はHACCP(ハッサプ)を意識したオペレーションを実施しているが、物流センターの方は意外にもドライ商品が多く、食品も常温対応が多い。

ここでマーケティングとしてはギャップが発生している。

百貨店物流の強み・ノウハウは繁忙期の波動吸収。

●また、丁寧な梱包と贈答シーズンのハイベロシティーへの対応力といったことから、ギフト物流に関する問い合わせも多い。

ただし、親本体の物量がピークの時と重なるため、あまり対応していない。そもそも百貨店の物流会社というのは、というよりは当社の物流センターをはじめとするファシリティーやマテハンはこの中元や歳暮の繁忙期のピークに合わせたスペックになっている。

なので、同じ波動の商材は対応ができないのである。

ファシリティーの設定レベル

下図のように、百貨店物流、特に物流センターは中元や歳暮などの贈答品のピーク、波動曲線の頂点に合わせて、センターの広さ、マテハンなどの機器・機材の設定をしている。

常に波動のピークを想定した設定になのである。これがハイベロシティーへの対応を可能にしている理由である。

閑散期においては、当然人員数の調整はすれども、センターは空きスペース(空坪)が目立つ。大げさに言うと、繁忙期を100とすると閑散期は40で2.5倍のボラティリティ・変動がある。

よって、外販をするのはこの波動をうまく打ち消す逆波動の商材をうまく当てはめるか、もしくはスポットで短期保管やスポットの流通加工商材を取得する事が望ましい。しかしながら、千件の案件で成約は三件、いわゆる「千三つ」と言われている物流営業の世界において、そんなにうまく商材を獲得できるのであろうか?

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●物流子会社としての役割は、グループに対する利益貢献でもある。与えられたファシリティーを超越したところで商売をすることが、果たして本来の物流子会社の役割なのか?

次回はその部分に触れていいきたい。

物流子会社とは?その3 (我々は日立物流になれるのか?)

●筆者は現在某大手百貨店の物流子会社に出向している。そしてグループにおける当社の存在する意味、価値を常に考えている。しかし、なかなか答えは見つからない・・・・。今回は、「我々は日立物流になれるのか?」と題して、物流子会社としてのあるべき姿を探っていきたい。

我々は日立物流になれるのか?

●お分かりだとは思うが、見出しの意味は、あくまでも「日立物流」が成功を遂げた物流子会社としての象徴的存在であるからこのような表現をしている。よって、これが「キューソー流通システム」でも、「ゼロ」でも、「富士物流」でも構わない。

要するに、株式比率や役員人事、顧客ポートフォリオの構成など、依然親会社の影響を受けていることは受けているが、独立した立派な物流会社としのプレゼンスを発揮していることができるかどうかがポイントであると考える。

つまり、物流会社としての特性・特徴であり、アイデンティティであり、もっと平たい言葉いうと、得意分野は何かという事である。その分野で「食べていける」だけのノウハウをもっているかという事である。

・日立物流・・・もともと家電や重電機器などの物流が得意分野

・キューソー・・・食品の温度帯管理が得意分野

・ゼロ・・・自動車の陸送が得意分野

・富士物流・・・電子部品の取り扱いが得意分野

では自分たちはどうなのか?(百貨店の物流)

筆者の会社の親は百貨店。「百貨」というだけあり、ゆりかごから墓場まで、すべての有形・無形のモノ・サービスを展開している。

よって、商品の取引先は優に1万数千社を越え、取り扱い品目は数十万品番ともいわれ、我々自身も正確に把握できていない。そして取引先は各社が三者三様の方法で商品を納品してくる。

こういった煩雑な納品は店舗周辺の交通渋滞と混乱を招くため、納品する配送会社を厳選する「指定納品代行制度」を取っている。指定した車両しか納品出来ない仕組みである。

また、物流的には食品と非食品で扱い方法が異なる。特に食品については、衛生管理上の規制もあり、設備や取り扱いが非常に難しい。

一方、非食品は常温なので扱いは難しくはないが、商品を特定できる管理番号であったり、JANコードをはじめとするソースマークコードがない場合がある。これは、メーカーがナショナルブランドでない、ファッション的に尖った中小のメーカーが多いからである。

LUXURYや美術品など、かなり特殊な扱いを必要とされることもある。中には目の飛び出るような金額の商品もある。

しかし、どのような状態であっても、管理番号を発番し、商品タグを発行し、一つ一つの商品に割り当てる」。(※実際は百貨店自身がやっていることは少なく、メーカーや中間の物流会社に委託することが多い)そして、一つ一つの商品を管理していくのである。

では自分たちはどうなのか?(贈答品:中元や歳暮)

最近は多少シュリンク気味ではあるが、まだまだ日本の生活習慣である中元や歳暮の取り扱いは多く、百貨店暖簾の柄がついたきれいな包装紙で「百貨店包装」して発送する。

最近はエコ包装というものもあるが、まだまだ百貨店包装をご要望されるお客様は多い。そしてこの梱包にはかなり熟練した技術が必要で、繁忙期などは熟練者が物流センターに数百人集まって、中元期、歳暮期にそれぞれ約2か月間作業をするのである。

上記はごくごく一部の内容ではあるが、百貨店物流は小売りの中でも際立って特殊性の高い物流なのである。そして我々はその特殊性の高い物流を実行しているのである。

写真はパリの百貨店「プランタン」

では再度聞くが、我々は日立物流になれるのか?

いくら特殊性の高い物流を手掛けることができたとしても、ニーズがなければ全く意味はない。また、ノウハウと技術を武器に外に打って出るだけの余力がなければならない。そして何より重要なのはマーケティング。物流会社としてどのように売り込んでいくのか?

数々の課題が残されている。

次回はこの点について触れていきたいと思う。