物流子会社とは? その1(ホームロジスティクス)

●ところで、筆者は現在某大手百貨店の物流子会社に出向しているが、年度末の3月を迎え、残すは人事異動の発表と中期3カ年計画の総仕上げとなった。

ここで、毎年のように議論される「物流子会社としてどうあるべきか?」「グループの機能子会社としてどのような役割を果たすべきか?」、そして、「そもそも親であるグループ企業に頼ることなく自立した物流会社を目指すべきなのか?」と、禅問答に近い議論が部長陣の中で繰り広げられる。

●今回はその議論には触れないが、世の中の物流子会社はどのように考えているのか?

いつもベンチマークしている当社と同じ小売業の物流子会社、トリの物流子会社である「ホームロジスティクス」の現社長と前社長のお話(2018年、2019年のJILS主催の講演内容)をご紹介したいと思う。

物流担当者の皆様の中にも、物流子会社所属の方は多いことと思うが、今後のご自身の会社の方向性を決める際に、一つのヒントになれば筆者としては幸甚である。

ニトリの物流子会社「ホームロジスティクス」

●ホームロジスティクス(以降、ホームロジ)は2018年に現在の社長、五十嵐さんがご就任された。この方は本体のニトリのご出身で、長年人事を担当された方で、社員教育に非常に熱心な方である。

その前の社長は、今や物流業界では知らない人はいないであろう、有名人の松浦さん。彼は三菱商事、ローソンの出身で、就任当時は物流のことはあまりご存知でなかったというから、不思議である。

どちらがどうだという比較論にはしたくないので、それぞれの社長がニトリの物流子会社であるホームロジをどのようにとらえていたか、お二人の考え方の共通点に絞り、説明をしたいと思う。

働くひとから「選ばれる企業」になる。

●まず、お二人ともおっしゃっていたのが

『物流は、ただでさえ敬遠される業界。働く人から「選ばれる企業」になる事は、とっても重要な課題である。最近でこそホームロジを専願する新卒が増えているが、やはりニトリ本体をおちてやってきている人もいる。』

『正直なところグループ企業の中での給与や待遇格差もある。なので、ホームロジのプレゼンスを高めブランディングをしていくことが、従業員モチベーションにもつながる。そして、最終的に「ニトリよりホームロジに入りたい」と言って」もらえるような会社にしたい。』

これは筆者の会社でも同じことが言えるのだが、残念ながら第一志望で大手企業の物流子会社を希望する者は、物流という業種を望んでいるというよりは、大手企業の冠を望んで入社してくる者がある一定数いるという事実である。最初の1,2年は気にはしないが、しばらくすると親会社からの無理難題な要望や、高圧的な態度から、精神的に参ってしまうことがある。そして、大手の企業に就職した大学の同期と比較したとき、倉庫や現場での作業に追われている自分が劣っているのではという感覚に陥る。最後は、当初自分が抱いていた仕事像とのフィットギャップを理由に退職してしまう、といったケースが目立つ。

その意味では、たとえ子会社であっても世間から認められ、一目置かれる会社になることは、従業員にとっては相当のモチベーションになる。

うちはもともと家具屋。物流は切り離せられない。

●次におっしゃっていたことは、

『家具の配送は、お買い上げになったお客様と触れある最終タッチポイント。ファッションの場合は店頭での試着時に、「似合いますね」という店員の評価が得られ、購買者の承認欲求がその場で満たされるが、家具の場合は、実際に部屋に置いてみないとわからない。そこで、配送員が一言でも「お部屋とあマッチしてますね。」とか「いいですね。」と一言いうだけでも、お客様の承認欲求はみたされ、満足は格段に上がる。うちは家具屋なので、創業時から物流業務は自社で行ってきた。切り離して考えることはできない。

まさに、ここでは商売の本質が語られている。

お客様の承認欲求を満たすこと。

選んだ家具が部屋に収まるか、収まらないか?そして似合うか似合わないか?服や小物と違って、家具の場合はいざ自分の家に持ってこない限りは判断できない。お客様は常に不安な状態なのである。

その不安な気持ちを解き放つように、さりげなく発した配送員の「いいですね」の言葉は、お客様にとっては何十倍にもなって届く。そして承認欲求が満たされる。

配送員が靴下を取り替えたり、Tシャツを取り替えて家具を搬入することぐらいは、どこでもやっている。しかし、たった一言「いいですね」とお客様に言うことができるか、できないかは、サービス業として歴然とした差が出る。

これは、ニトリが、ホームロジが、家具屋であること、そしてお客様あっての商売であることをいつも忘れないでいるからこそできる技なんだと思う。

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