●例えば、業務委託先から運送費の値上げ要請があったとしよう。
これまでは、取得した数値情報を細かく分析をおこない、その結果に基づいた交渉をするべきだと言ってきた。しかしながら、いくら原価構造に関係する数値を業務委託先からゲットしようとしたところで、それは余り意味がない。
こう言ってしまうと、自らが自己の主張を否定してしまうことになるが、実際に業務委託先からの正確な情報は、彼らとしては秘密にしておきたいことであるから、殆ど得られることが無いと考えてよい。運送費にまつわる情報であれば日本トラック協会やJILSなどのネットを漁れば、大抵の情報は委託先にヒヤリングしなくてもゲットできる。
では、なぜ意味がないのに数値を根拠にして交渉をすすめるのか?
●委託先に対し、価格を決定する要素を当方はちゃんと認識しているのだという事をアピールし、良い意味での牽制をかけるためである。
また、業務委託先の返答において原価に関する数値が相場から「大きく」ズレている場合は、委託先の担当者のレベルや、管理体制を知ることができる。
そのために、ネット情報で十分なので、あらかじめ表のような原価情報を準備しておく必要がある。何も丸腰で戦えということではなく、“正確でなくてよい”ので戦う上での最低限の準備をしておけばよいのである。そのように交渉を進めれば、自然と正解に近い情報が委託先の口から零れるものである。
●例えば、運送費の場合値上げの理由でよく言ってくるのが
①燃料費の高騰
仮に運送費20%の要請が来たとする。しかし、原価にしめる燃料費の割合は準備した資料からすると、「原価構成比は約5%」。いくら燃料の高騰だといっても20%UPの影響はないと反論できる。
②人件費の高騰
専門知識がないであろうと踏んで、訳の分からない「法定福利費」のことを理由に挙げてくることがある。
しかしながら、社会保険制度が大きく変わらない限り、法定福利費が大幅に変化することはない。また給与に対しては相場が16.3~16.7%、(ざっくり16%前後)、原価構成比も8%なので、仮に20%UPの理由に挙げてきても、「逆に今までは、どうしていたのですか?」と先方の経営上の不備を指摘することができる。
また、最も原価構成比の高い(約50%)人件費も、もしそれが運送費全体の20%UPの理由であれば、構成比50%のものが全体の20%UPのインパクトを与えるためには40%UPが必要となり、物流クライシスとは言え1.4倍の給与というは法外である。逆に「貴社は給与が良いですね。」と、チクリと刺すこともできる。
そうした会話の中から、交渉する人間の経験と力にもよるが、当たらずとも遠からずの数値が取得できる。このような交渉を様々な委託先と行うことによって、より精度の高い情報が得られるようになり、各費用の相場感がナレッジとして蓄積する。そして、その頃には“〇〇〇社は侮れない”と各委託先から思われているはずである。
●それでは最後に、冒頭の「交渉において正確な数値が必要か?」についてであるが、正確な情報があったに越したことはない。しかし、世間のありものの情報であってもしっかりと準備していれば交渉は十分にできると断言する。