棚卸は誰のために行うのか?(棚卸誤差について)

●物流担当者にとって、最も体力と神経を使うのが棚卸だと思います。そして、棚卸作業がひと段落したあとに、もう一つ大変な作業として在庫差異、つまり「棚卸誤差」の調整があります。

今回はこの「棚卸誤差」について、ちょっと掘り下げてみたいと思います。

【棚卸誤差の発生する原因】

●一般的によく言われることとして、

・入荷検品時の検数ミス

・出荷時のピッキング数量のミス。

・倉庫内での紛失

・商品の移動や移送時の帳簿記入またはシステム入力の漏れ

・倉庫内での盗難 等々等々

以上のように枚挙にいとまがありません。そして当然ですが、物流倉庫では当たり前のように対策がとられております。

一方で、棚卸時のカウントミスというのも、もう一つの大きな原因です。

通常、倉庫管理システム(WMS)を使用している場合は、日々の入荷と出荷がシステム上で在庫の受け払いを記録することになるため、帳簿在庫はすなわちWMS上の在庫という事になります。

WMSによる棚卸は、このWMS上の在庫と現物商品との照合作業になりますが、一回のカウントで終了するのでなく、一回目のカウントで発生した「数量差異リスト」をもとに、二回目のカウントを実施します。

それでも合わない場合は、WMS上での入出荷履歴を追っかけたり、イレギュラー業務などを過去の書類をひっくり返して調査します。

また、棚入れ担当者などがいる場合は、その人の「記憶」をたどり、該当商品が関係しそうな場所を念入りに調査します。その結果、どうしても発見できなかった場合に差異が発生したということになるのです。

【棚卸差異の許容範囲は】

●荷主側と物流会社側との契約にも因りますが、通常は棚卸差異の許容範囲を契約書上、もしくはSLA(サービスレベルアグリーメント)上で設定します。

これは、棚卸作業があくまでも人間の作業によるもので、100%ミスがない状態は難しいという事を考慮しているからです。

また、商品によっては入荷検品を段ボールの箱の入数表示をもとに検数処理をする場合や、カートンに貼付してあるバーコードラベルをスキャンし、数量情報を取得する検品の方法(SCM検品)を取り入れている場合など、何千もしくは何万の1レベルで数量差異がもともと発生しているといったケースもあるからです。

そして、この許容範囲は取り扱う商品や、業務がBtoCなのか、BtoBなのかによって変わります。

ちなみに、日本ロジスティクス協会が2014年に作成された『ロジスティクスKPIとベンチマーキング調査報告書』では、業種業態が様々な31社をサンプルにして集計された棚卸差異率は

中央値が0.065%、平均値が0.48%です。

若干高い方に寄っている傾向はみられるが、中央値の0.065%は、例えば今私が所属している会社が物流会社と握っている数値が0.03%~0.06%の間であることと、特にアパレル業界などは、一葉に0.05%と設定している場合がほとんどであることを考えると、数値としてはある程度の信ぴょう性があると思います。

【棚卸誤差が与えるインパクト】

●棚卸の結果をもとに期末棚卸資産を確定するわけですから、棚卸誤差は経営に直接インパクトを与えます。ではどれくらいのインパクトがあるのか?

かつて私が担当していたアパレル通販でシミュレーションをしてみます。

上表にあるように、在庫が5%や10%なんか狂っていたら(マイナスだったら)、営業利益10%のビジネスにたいして甚大なインパクト与えることになります。(プラスの場合も別な意味で大問題。後述)

いかに在庫管理が重要で、棚卸差異が重要なKPIか理解していただけるとおもいます。

【棚卸差異の確定】

●次に、在庫差異の発生は人間によるオペレーションなどが原因といいましたが、一方でメーカーが納品してきた入数に差異がある場合なども原因の一つです。つまり、荷主、メーカー側にも責任の一端があるという事です。

その時、例えば同一アイテムの色違いの商品における数量差異は、ネットする、つまり相殺処理をする場合があります。(上の表1のアイテムA001の場合)

ただし原価が同じであることが条件になります。

一方で、「逆ロス」という現象も考慮しなければなりません。(上の表1のA002)

これはネットした結果、在庫がプラスであったという事です。つまり、帳簿在庫もしくは倉庫システム在庫は常に少ない状態であったため、倉庫の上位にあたるECの販売管理システムはその少ない在庫で商売をしていたという事になります。

よって、この場合は「販売機会損失」という理由で、倉庫側が買い取りをしなければならない場合があります。よく物流倉庫でファミリーセールやガレージセールを行うことがありますが、その商品はそこから出ていることが多いのです。

※ただし、民法における契約の自由の原則から、逆ロスは倉庫が買い取ると双方が納得して契約した場合に限ります。また協議の末、買い取るという事もあります。いずれにせよしっかりと明文化すべきです。

 

●以上、今回は棚卸差異について深堀をしてみました。物流担当者の疑問や悩みの解決の一助になったでしょうか?今後もこのような、ちょっとデリケートな物流問題を取り上げていきたいと考えております。

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